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愉快ドリヴン

Frullaniの積分について

次の形の積分をFrullaniの積分というらしいです*1

\[\int_0^∞ \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx. \]

適当な条件下で,この値は f(0) \log (b/a)になります.具体的にどのような積分を計算するのに使えるかについては下の方の例を見てください.Riemann積分(広義積分)の意味でこれが成り立つことの証明を書いておこうと思います.

はじめに

Frullaniの積分は大学1年生の微積分で登場することがあるようです*2.僕も f(x) C ^ 1級であるときの証明は演習問題としてやったことがあったのですが,たまたま見た大学院入試問題から連続性だけで十分だということを知りました*3.ちょっと検索してみた限りでは日本語でこれについて書いているページは見当たらず,英語でも思ったほど多くは出てきませんでした.ということで,せっかくだし記事に残してみようと思った次第です.

C^1級の場合

 f(x) C ^ 1級であることを仮定すれば,重積分(あるいは同じことですが積分記号下での微分)を用いて証明できます.岡安隆照・吉野崇・高橋豊文・武元英夫『微分積分演習』の254ページを参考にしました.

 f:[0,∞) → \mathbb{R} C^1級であり, \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x) = 0を満たすとする.このとき, a,bを正の実数として

\[
\int_0^∞ \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx = f(0) \log \frac{b}{a}
\]

が成り立つ.*4

証明: 0 \lt b \lt aとして示す. F(x,y) = f'(xy)は2変数関数として [0,∞) × [b,a]で連続である*5.よって, b \leq y \leq aにおいて広義積分

\[
\int_0^∞ f'(xy) dx
\]

が一様収束であることを示せば,

\[\begin{align}
\int_0^∞ \frac{f(ax) - f(bx)}{x} dx &= \int_0^∞ dx \int_b^a f'(xy) dy \\
&= \int_b^a dy \int_0^∞ f'(xy) dx \\
&= \int_b^a \left[ \frac{f(xy)}{y} \right]_{x=0}^∞ dy \\
&= - f(0) \int_b^a \frac{dy}{y} = f(0) \log \frac{b}{a}
\end{align}\]

がわかる.さて, f(x) [0,∞)上連続で \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x) = 0なので x \geq 0に対して \displaystyle \max_{t \geq x} |f(t)|が存在し*6,これを M(x)とおけば \displaystyle \lim _ {x↑∞} M(x) = 0 R \gt 0として

\[\begin{align}
\sup_{b \leq y \leq a} \left| \int_R^∞ f'(xy) dx \right| &= \sup_{b \leq y \leq a} \left| -\frac{f(Ry)}{y} \right|. \\
&\leq \frac{M(Rb)}{b} → 0 \, (R ↑ ∞).
\end{align}\]

であるので,一様収束性が示された.

連続だがC^1級とは限らない場合

 f:[0,∞) → \mathbb{R}は連続であり,さらに次の2つの条件のうち少なくとも一方をみたすとする:
  1.  \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x) = 0
  2. 広義積分 \displaystyle \int _ 1 ^ ∞ \frac{f(x)}{x} dxが収束する.

このとき, a,bを正の実数として

\[
\int_0^∞ \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx = f(0) \log \frac{b}{a}
\]

が成り立つ.

証明: 0 \lt b \lt aとして示す. 0 \lt r \lt Rとして,

\[\begin{align}
\int_r^R \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx  &= \int_{ar}^{aR} \frac{f(x)}{x} dx - \int_{br}^{bR} \frac{f(x)}{x} dx \\
&= \int_{bR}^{aR} \frac{f(x)}{x} dx - \int_{br}^{ar} \frac{f(x)}{x} dx.
\end{align}\]

まず第2項を評価する. ε \gt 0を任意にとる. f(x)は連続なので,ある δ \gt 0が存在して, 0 \leq x \lt δならば |f(x) - f(0)| \lt εが成り立つ.このとき ar \lt δなる r \gt 0に対して

\[
\int_{br}^{ar} \frac{f(0) - ε}{x} dx \lt \int_{br}^{ar} \frac{f(x)}{x} dx \lt \int_{br}^{ar} \frac{f(0) + ε}{x} dx,
\]

つまり
\[
\left| \int_{br}^{ar} \frac{f(x)}{x} dx - f(0) \log \frac{a}{b} \right| \lt ε \log \frac{a}{b}
\]

が成り立つので

\[
\lim_{r↓0} \int_{br}^{ar} \frac{f(x)}{x} dx = f(0) \log \frac{a}{b}.
\]

次に第1項を評価する.条件1.が成り立つときは, ε \gt 0をとったときにある λ \gt 0が存在して x \gt λならば |f(x)| \lt εが成り立つので,いま行った第2項の評価と全く同様にして

\[
\lim_{R↑∞} \int_{bR}^{aR} \frac{f(x)}{x} dx = 0
\]

がわかる.条件2.が成り立つときは,

\[
\int_{bR}^{aR} \frac{f(x)}{x} dx = \int_1^{aR} \frac{f(x)}{x} dx - \int_1^{bR} \frac{f(x)}{x} dx
\]

において R↑∞のとき右辺は 0に収束する.以上より

\[
\int_0^∞ \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx = f(0) \log \frac{b}{a}
\]

である.

ちょっとした変形

 \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x) = 0という条件を考えましたが, \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x) = lのときは f(x)のかわりに f(x) - lを考えれば次のことがわかります:

 f:[0,∞) → \mathbb{R}は連続であり, \displaystyle \lim _ {x↑∞} f(x)が収束してその値が f(∞)であるとする.このとき, a,bを正の実数として

\[
\int_0^∞ \frac{f(ax)-f(bx)}{x} dx = (f(0) - f(∞)) \log \frac{b}{a}
\]

が成り立つ.

 a,b \gt 0とします. f(x)=e^{-x}は条件1を満たすので,

\[
\int_0^∞ \frac{e^{-ax} - e^{-bx}}{x} dx = \log \frac{b}{a}
\]

です. t = e^{-x}と変数変換すれば

\[
\int_0^1 \frac{t^{b-1} - t^{a-1}}{\log t} dt = \log \frac{b}{a}
\]
となります.また, f(x)=\cos(x)は( x↑∞での極限は存在しませんが)条件2を満たすので,

\[
\int_0^∞ \frac{\cos(ax) - \cos(bx)}{x} dx = \log \frac{b}{a}
\]

となります.

\[
\sin(ax) \sin(bx) = \frac{1}{2} ( \cos( (a-b) x) - \cos( (a+b)x) )
\]

を用いると, a-b \gt 0 ,\, a+b \gt 0として
\[
\int_0^∞ \frac{\sin(ax) \sin(bx)}{x} dx = \frac{1}{2} \log \frac{a+b}{a-b}
\]

が得られます.ちなみに C ^ 1級でない連続関数を用いた例は知らないので,仮定を緩めた意味があるのかはわかりません.

参考にした記事

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*1:Frullani integral - Wikipedia

*2:https://twitter.com/Paul_Painleve/status/988317668238229504

*3:https://www.math.kyoto-u.ac.jp/files/master_exams/12math1.pdf

*4:なお,下の C^1級を仮定しない場合の証明からわかるように, \lim _ {x↑∞} f(x) = 0の代わりに広義積分 \int _ 1 ^ ∞ (f(x)/x) dxが収束することを仮定しても成り立ちます.

*5: (x,y) \mapsto xyが連続であることを用いています.これは, (x,y) \in \mathbb{R} ^ 2 ε \gt 0を任意にとったとき, xy=0のときは δ = \sqrt{ε} xy \neq 0のときは δ = \min \{ε/(2|x|) , ε/(2|y|)\}とおけば (x,y) δ近傍の像が xy ε近傍に入ることからわかります.

*6:仮定より t \gt Rならば |f(t)| \lt 1となるような R \gt xをとることができます.連続関数 |f(t)|有界区間 [x,R]上では最大値をとるので, t \geq x |f(t)|が上に有界であることがわかります.よって上限 \sup_{t \geq x} |f(t)|が存在します.この値が 0ならば t \geq x f(t) = 0であり,また正ならばある R' \gt xが存在して t \gt R'では |f(t)|の値がその上限より小さくなるため,有界区間 [x,R']上のある点で連続関数 |f(t)|はその上限の値をとります.