メモ帳

愉快ドリヴン

単項的(分解可能)p-ベクトルについて

少し前に書いた記事:

ypcpl.hatenadiary.jp

を読み返していて思いついたことのメモ.

 Kを体, n自然数として V n次元 Kベクトル空間とする.各 p \in \{ 0,\ldots,n \} α \in \bigwedge^p Vに対して, αとの外積をとるという Vから \bigwedge^{p+1} Vへの線形写像 f_{p,α}と書くことにする:

\[ f_{p,α} : V → \bigwedge^{p+1} V ;\; v \mapsto α ∧ v . \]

このとき次の定理が成り立つ.

定理 p \in \{ 0,\ldots, n \}とする. α \in \bigwedge^p Vが単項的であることの必要十分条件 f_{p,α}のランクが 0または n-pとなることである.

証明

(必要性) α = 0ならば任意の v \in Vに対して α ∧ v = 0となるので, \mathrm{rank}f_{p,α} = 0である. α \neq 0であり,ある v_1,\ldots,v_p \in Vを用いて α = v_1 ∧ \cdots ∧ v_pと表されたとする.このとき v_1,\ldots,v_pは1次独立であるので, v_1,\ldots,v_n Vの基底となるように v_{p+1},\ldots,v_n \in Vを取ることができる. i = 0,\ldots,pに対しては f_{p,α}(v_i) = 0となる. v_{p+1},\ldots,v_nの取り方から各 i = p+1,\ldots,nに対して v_1,\ldots,v_p,v_iは1次独立となるので, f_{p,α}(v_i) = v_1 ∧ \cdots ∧ v_p ∧ v_i 0でない. v_1 ∧ \cdots ∧ v_p ∧v_i (i = p+1,\ldots,n)は1次独立であるので, \mathrm{Im}f_{p,α}の基底であり,従って \mathrm{rank}f_{p,α} = n-pである.

(十分性) k = \mathrm{dim}\,\mathrm{ker}f_{p,α}とおき, v_1,\ldots,v_k \mathrm{ker}f_{p,α}の基底, v_1,\ldots,v_n Vの基底となるように v_1,\ldots,v_n \in Vを取る.このとき,ある a_{i_1 \cdots i_p} \in K (1 \leq i_1  \lt \cdots \lt i_p \leq n)を用いて

\[ α = \sum_{1 \leq i_1 \lt \cdots \lt i_p \leq n} a_{i_1 \cdots i_p} v_{i_1} ∧ \cdots ∧ v_{i_p} \]

と表せる.各 i = 1,\ldots,kに対して

\[ f_{p,α}(v_i) = \sum_{\substack{1 \leq i_1 \lt \cdots \lt i_p \leq n \\ i_1,\ldots,i_p \neq i}} a_{i_1 \cdots i_p} v_{i_1} ∧ \cdots ∧ v_{i_p} ∧ v_i = 0 \]

である. v_{i_1} ∧ \cdots ∧ v_{i_{p+1}} (1 \leq i_1 \lt \cdots \lt i_{p+1} \leq n) は1次独立であるので,上の式の右辺の各係数はゼロ,つまり i_1,\ldots,i_pがいずれも iとは異なるならば a_{i_1 \cdots i_p} = 0である.これがすべての i = 1,\ldots,kに対して成り立つので, \{ 1,\ldots,k \} \nsubseteq \{ i_1 ,\ldots, i_p \}であるような 1 \leq i_1 \lt \cdots \lt i_p \leq nに対しては a_{i_1 \cdots i_p} = 0である.

さて, \mathrm{rank}f_{p,α} = 0,n-pであったので, k=n,pである.まず k=nの場合を考える. i_1,\ldots,i_pの中に 1,\ldots,nがすべて現れていなければ a_{i_1 \cdots i_p} = 0であったので, 0 \leq p \lt nならば α = 0 p = nならば α = a_{1 \cdots n} v_1 ∧ \cdots ∧ v_nとなっていずれも単項的である.次に k=pの場合を考える. \{ 1,\ldots,p \} \nsubseteq \{ i_1 ,\ldots, i_p \}ならば a_{i_1 \cdots i_p} = 0であるので, α = a_{1\cdots p} v_1 ∧ \cdots ∧ v_pとなり単項的である.

ちゃんと書こうとすると意外に長くなってしまった.もっと簡潔にできないものか.なお,この定理から直ちに次のことがわかる.

 \bigwedge^{n-1} V, \bigwedge^n Vの元はすべて単項的である.

証明 \mathrm{dim}\bigwedge^n V = 1, \mathrm{dim}\bigwedge^{n+1} V = 0であるので,任意の α \in \bigwedge^{n-1} Vに対して \mathrm{rank}f_{n-1,α} = 0,1,また任意の β \in \bigwedge^n Vに対して \mathrm{rank}f_{n,β} = 0である.よって上の定理から従う.

 p = 0,1に対してはこの系のように簡単に次元から絞り込むことはできないが,定義を思い出してみれば, \bigwedge^0 V = K, \bigwedge^1 V = Vの元はtrivialに単項的である.(一応 f_{p,α}のランクを見てみても, \mathrm{rank} f_{0,0} = 0 a \in K \setminus {0} に対して \mathrm{rank}f_{0,a} = n \mathrm{rank} f_{1,0} = 0 v \in V \setminus {0} に対して \mathrm{rank}f_{1,v} = n-1はほぼ明らか.)

以前の記事で挙げた例の V = K^4, α = e_1 ∧ e_2 + e_3 ∧ e_4 \in \bigwedge^2 Vでは, α ∧ e_i i=1,\ldots,4のいずれに対してもゼロにはならないので \mathrm{ker}f_{2,α} = 0である.これは n=4にも p=2にも等しくないので,上の定理から αが単項的でないことがわかる.

追記(2019/09/19):自分で思いついたことをまとめただけで特にこのことについて調べていなかったが,目新しいアイディアだとは思っていなかったので一応検索してみた.ちょっと見てみて出てきたページが次の通り:

[1]:Poly-vector - Encyclopedia of Mathematics

[2]:Exterior product - Encyclopedia of Mathematics

[3]:linear algebra - Decomposable elements of $\Lambda^k(V)$ - Mathematics Stack Exchange

[1]では \mathrm{ker}f_{p,α}にあたるものを \mathrm{Ann}\,αとして同じことが書いてあったのに加えて,decomposable以外にもfactorable, pure, primeという用語が同じ意味で使われると書いてあった.これらの単語の方が概念に合っていて良さそうだと感じた.[2]には「単項的な p-ベクトルは Vの向きづけられた p次元部分空間を定める」という旨の書き方がされていた.[3]では単なる「単項的」より一般的な" m-decomposable"という概念が定義されていて,上と同様の議論によって多少一般的な命題が示されていた.(日本語で「 m-単項的」とか「 m-分解可能」とするとどうしても違和感があるがこういう場合はどんな訳語をあてるんだろうか.)